あいの、うた 木原 音瀬 (2005/12/21) 蒼竜社 この商品の詳細を見る |
芸能もの。
「あいの、うた」雑誌編集×バンドマン
「The end of yaouth」飲み屋のマスター×落ち目スター
の2本とそれからの話が入っている。
音楽ものだったのかと手にしてから知ったけれど、芸能はさておき話として面白かったと思います。
なぜかあらすじも、表紙もタイトルの「あいの、うた」ではなく、The end of yaouthが取り上げられ、なんとなく不思議。
どちらも、というか作者に共通するのが、社会になじめない男と常識人が溝を埋めながら愛をはぐくむ物語。
【あいの、うた】
音楽を志し挫折した音楽雑誌の編集者の小菅が、編集長をはじめコア層に人気のボーカル久保山と成り行きでその久保山と接点ができる編集者。
久保山と小菅の出会いは最悪、しょっぱなから久保山に殴られる小菅。
小菅はバンドの音楽性も乱暴な久保山のことも理解できないが、他のバンドメンバーのことを好きになり、下心から久保山を家に上げたり面倒を見ているうちに好きになっていく、と、筋だけを上げると味気なく何が良かったのか伝わらないけれど、エピソードの入れ方がうまくハラハラして感動できる話になっている。
小菅、久保山両側にハプニングがあり、大団円とは言い切れないけれど、ハッピーエンドではないのかと思う、読後感は悪くない。
【The end of yaouth】
あいの、うたと同じシチュエーションで、小菅のいた音楽雑誌出版社の編集長、田頭の過去と現在を描き、あいの、うたとリンクしていて面白い。
高校時代バンドを組んでいた田頭はルックスのよさから一人スカウトされ、バンド仲間やなついていたバンドメンバーの弟、日向力も捨てて東京に出る。アイドルとして売り出されるが、売れたのは一枚だけ。
その後、仕事もなく転落のさなかで元のバンドメンバー日向と会い、弟の力が現在やっている飲み屋に連れて行かれ、再開を果たす。
力が協調性ゼロで友達もいない。そんな力が惚れ込み強引に迫るが、東京行きとともに音信普通になる経緯もあり、力と田頭の再開は最悪の状態から始まる。
どちらも自分のことしか考えていなく、相手を思いやる気持ちなどとは無縁だが、世間の荒波にもまれながら拠り所を見つけていくのに、素直に良かったと思える。
どちらの話の登場人物も、決してよくできた人間ではないけれど、一生懸命生きているのにだんだん感情移入できるのが、好きになっていく過程とうまくあっている。
その後の?のあいの、うたとリンクした短編が良かった。
両方のラストが納得できる話でした。
職場では傲岸不遜な態度の沢崎譲。そんな彼がセックスでは従順だと知った能代聡は、そのギャップに強烈な魅力を感じ、彼と恋人として付き合い始めることに。だが、譲には隠れた性癖があった-。Mによる、S育成ストーリー。
SMもの。
サイトの話が好きだった作者さん。
好みで言えばサイトのSMカップルの話の方が好きかも。
Mが開発されていく話で、S側M側両方の内面を深く掘り下げ、やってることは結構すごいけれど、語り口が上品なので読みやすい。
同じSMモノだけれど内容が全然違うので比べるのもなんですが、プレイとしてのSM描写もあり、内面のつながりのSとMの関係が深い。
「MによるS育成」というのに興味を引かれたのですが、育成と言うよりもMがSの隠れた感情を引き出す話。
Mである性癖を自覚している沢崎も、どうしてもSMプレイでなくてはと拘るわけでは無いけれど、より大きな快感が得られるのがMであることと言う。
その相手に選ばれた能代はSの性癖を持ちながら、幼い頃の記憶から暴力的なプレイを嫌悪しながら、沢崎が望むならと踏み込んでは迷って・・というその辺の葛藤が書かれている。
パートナーが望むかたちに変化できるならいいけれど、感情と快楽の条件が一致しなかった場合はどこで折り合いを付ければいいのだろうと考えてしまう。
従順そうに見えた沢崎のしたたかな罠張りと、能代のSへの目覚めに対する行ったり来たりが見所。
プレイはSM、出会いはハッテンバという状況でありながら、能代と沢崎の間に生まれるのはストイックな純愛。
派手なプレイよりも、精神的なSとMの関係を楽しみたい。調教しないSというのもめずらしいような気がします。
ソリッド・ラヴ榎田 尤利 (2000/11)大洋図書 |
リーマンもの。
顔よし、頭よし、性格悪しのパーフェクト男・伊万里敦彦は男から見てもいい男だ。おまけに仕事もできる。そんな伊万里から告白された吾妻。ホモじゃないはずなのに、伊万里に触られるのは気持ちよくて、もっと伊万里を感じたくなる。そんな時、ふたりの気持ちがすれ違い…。
元気で明るい事が取り柄の吾妻と超エリートのパーフェクト男、伊万里の成長物語。
もともとリーマン物が好きだというのもあるけれど、それだけではなく、この作者は成長物語がうまく入り込んで読める。
どんな飛んだシチュエーションでもキャラが身近に感じられ、ドキドキさせる状況に陥って上手くまとまる。
エッチシーンも、濃すぎずかといって味がないわけでもない京風味。
はずれが少なく作家買いしたい人。
【ソリッド・ラブ】
吾妻と伊万里(アズマリ)の出会い編で2人とも新入社員。
素直で元気だけが取り柄の吾妻に入社式時に一目惚れ。というガチな伊万里は、大企業の内定を蹴ってナノ・ジャパン(吾妻と伊万里がいる会社)に就職を決めたエリート強者。
会社ではクールで女子社員人気もナンバーワンながら、吾妻には情熱的に迫る。
オセオセ伊万里の強引さと、普段のクールさのギャップと、自分の気持ちに鈍感な吾妻が、すれ違いながら少しずつ気持ちを通わせていく過程が楽しめる。
【レイニー・シーズン】
晴れて気持ちの通じ合った吾妻と伊万里に次から次へとトラブルが降りかかる。
伊万里の元恋人まで現れ心を乱される吾妻を、放っておけない同僚の王子沢が構うのを見て伊万里は気に入らず、と完全にすれ違う吾妻と伊万里。
仕事もプライベートもトラブル続きで心労が重なった吾妻が倒れたりするも、最後はちゃんとハッピーエンドになるから読後も気持ちが良い。
【オール・スマイル】
入社3年目になり、社会人としては半人前以下だった吾妻も成長をしてそれなりに仕事もできるようになる反面、周りが見えてきた吾妻はエリートである伊万里との実力の差が気になりもする。
そんな中、伊万里が原因で吾妻が襲われけがをしてしまい、責任を感じた伊万里が別れを告げる、今回は刃傷沙汰。吾妻ボコボコです。
恋人として甘やかされるだけではなく、同僚として認めて欲しいと伊万里に反発する吾妻との間を決定的に別れさせた事件にハラハラしながら、やはり綺麗にまとまる終わり方にすっきりと明るい気持ちになれる。
オールスマイルというタイトルに納得。
ラストのこっそり手を握った伊万里と、怒れなかった吾妻がお気に入り。
【ワーク・デイズ】
アズマリシリーズでの脇役、同僚、王子沢の話。
勝手気ままな上司に付き添って来た社員、榊は、出張先のタイで困っているところを応じ沢に助けられる。
愛想のないクールな榊は、はじめはいい苦手だった王子沢の自由奔放さに引きずられるうち、いつの間にか心を開いていく。
しかし日本に帰って、王子沢はライバル会社の社員だったと知り・・という障害を乗り越え気持ちを通わせるストーリー。
ドラマチックな事件やパーフェクトすぎる男が出てきたりと現実ではなかなかなさそうなのに、なぜかすぐ隣にいそうで肌でキャラクターを感じられる。
読み終えて終わりではなく、登場人物には明日も明後日もあって、10年後もケンカをしながらも仲が良いんだろうなあと思える。
エス 英田 サキ (2005/02/10) 大洋図書 この商品の詳細を見る |
エス 咬痕 英田 サキ (2005/05/28) 大洋図書 この商品の詳細を見る エス 裂罅(れっか) 英田 サキ (2006/02/25) 大洋図書 この商品の詳細を見る |
やくざ×刑事もの。
「エス」とはスパイのこと。
エスと呼ばれる協力者を使い、拳銃押収の操作をしている刑事の椎葉と、彼のエスになった大物やくざ宗近のプライドと本音が絡み合う辛口ラブストーリー。
事件が起こるたびに追いつめられていく椎葉と宗近だけれども、2人の絆は深まっていく過程が丁寧に描かれている。
エス 裂罅(れっか)は続き物の上巻のような状態なのでちょっと注意。続きが気になる。
警視庁組織犯罪対策第五課の刑事、椎葉が主人公なので、内部のことまでかなり詳しく書かれており、椎葉の抱える事件と恋愛事情両方で緊迫感のある話が堪能できる。
・「エス」では、宗近の前に椎葉がエスにしていた安藤をめぐる事件と、宗近と椎葉が出会うきっかけの話。
・「咬痕」では同僚の刑事永倉とそのエスである小鳥遊真生(たかなしまお)のストーリー。エスと刑事との絆が深く椎葉に咬痕を残す。
・「裂罅」では宗近の背負ったものがクローズアップされ、椎葉に危険が迫る。
エスとして宗近を欲しがる椎葉と自分の女として椎葉を欲しがる宗近の駆け引きから、宗近がエスになってから互いを思い合うまで、エスと刑事という甘くない関係の宗近と椎葉は読み応えがある。
気も強ければプライドの高い椎葉だけあって男に落とされるのに反抗しまくるのでラブラブ甘?い状況はありませんが、その分エッチシーンなどでセクシーさが引き立つような気がします。
攻め側宗近もパーフェクト男ではありますが、素でオヤジくさい事を言い出すのがどうしようもなく寒い・・・けれど人間らしいと思っておくことにします。
エッチシーンはしっかりあるものの、そこまでエロエロというわけではないのに漂う色気は大胆な挿絵の効果も大きい気がします。
イメージとぴったりあう挿絵だと効果絶大。
間の楔〈1〉帰って来た男吉原 理恵子 (2001/10)光風社出版 この商品の詳細を見る
間の楔〈2〉命動吉原 理恵子 / 光風社出版 (2003/06)¥ 500
間の楔(3) 刻印吉原 理恵子 / 成美堂出版 (2004/08/11)¥ 500
間の楔〈4〉昏迷吉原 理恵子 / 成美堂出版 (2005/12)¥ 500
間の楔〈5〉長い夜吉原 理恵子 / 成美堂出版 (2006/06)¥ 500
ミッドナイト・イリュージョン―間の楔 異聞 吉原 理恵子 (1996/02) 光風社出版 この商品の詳細を見る |
間(あい)の楔 / 吉原 理恵子
間の楔 AMBIVALENCE / 吉原理恵子(原作)
『小説JUNE』の'86年12月号から'87年10月号まで、6回に渡って連載された吉原理恵子・作、銀が英雄伝の道原かつみ・挿画による"SF激愛ロマン"。
なんとイタリア語吹き替えまで作られている人気作品。
カセット声優陣は
リキ :関俊彦
イアソン :塩沢兼人
ラウール :池田秀一
カッツェ :大塚芳忠
ガイ :小島貴幸
キリエ :松野達也
他DARK EROGENOUSでは
リキ 関 俊彦
イアソン 塩沢 兼人
ラウール 速水 奨
ダリル 置鮎 龍太郎
ミメア 篠原 恵美
エニフ 柴本 浩行
カイル 中村 秀利
ペットA 嶋村 薫
ペットB 熊井 統子
ガンダムのシャアがいたり北斗の拳のレイがいたりロードオブザリングのアラゴルンがいたりと、それ系ハシリなのにとても豪華で、制作キャストともに心意気が伝わってくる。
ボーイズラブというライトな感覚ではなく元祖JUNE系といったしっとり濃ゆいエッチが繰り広げられている。
歓楽都市ミダスは倫理もタブーもない欲望の電脳都市であり、そこのスラム街に帰ってきた主人公リキ。
強烈なカリスマ性でスラム街のグループのリーダーにのし上がったリキと上流階級住民のイアソンの出会いから運命の歯車が回り始める。
冷静沈着で全てを持っているパーフェクト男イアソン×粗野で負けん気が強くちっともいうこと聞かないリキという耽美系JUNEの王道。
リキがペット扱いなので縛られていたり、あそこにリングを付けられたりとSM要素を含みつつ辛口ラブの中で、イアソンのリキに対する想いが見え隠れしてほろりとくる。
特殊な世界観なので、この世界にどっぷり浸かって楽しむのが吉。
ウリ専!♂が♂にカラダを売る仕事 松倉 すみ歩 (2006/02/10) 英知出版 この商品の詳細を見る |
組合員でない作者がウリ専ボーイに取材したノンフィクション。
この本はたまたま暇な時に手近にあったから読んだだけだったけれどおもしろかった。
「クリック一つで買えるオトコのコがいます」
そんな帯がつけられ紹介される7人の男の子。
変に飾ったり正当化したりするような押しつけがましさはなく、ただこんなオトコのコもいますよとルポタージュでつづられているのが良かった。
オトコがオトコに体を売ってお金をもらう。その行為を「ウリ専」と呼ぶ。オンナがやるとヘルスやソープと呼ばれるそれだ。
店に所属してオトコ版売春をするのコをボーイと呼ぶ。相場も女性が体を売るのに比べてかなり安い。
そんなウリ専に関する知識が冒頭に書かれていたり、どういうところかも紹介されているので一度利用してみたいけど・・と迷っている人の入門書にも良さそう。
紹介されるボーイ7人ともそれぞれ魅力的に語られており、本書を読むと一度指名してみたくなる。
金が欲しい。それがウリ専に飛び込む最大の理由だろう。
しかし、「金」だけで満足できるほど彼らは明日食う物に困っているわけでもない。
結局のところ彼らは学歴や教養でないところで評価されれる、持って生まれた容姿で自分を確認しているのではないだろうかというのが作者の答え。
いつでも足を洗えると思っているはずが、すでに流れに飲まれてしまっているノンケくんがいたり、エッチ大好き家族も公認のあっけらかんとした男の子がいたり、何種類かの自分を使い分ける手段の一つにしていたり。
見事に違うタイプのボーイが揃えられ、どれかに好みが当てはまりそうなところはあざといけど、読み物としておもしろい。
なにがあっても表面は飄々としているボーイがいるかと思えば、自分は違うと最後まで思い続けることがプライドだったり、溶け込むことで自分を防御するなど、それぞれの葛藤と転落、そして強く生きてゆく様がリアルに描かれている。
ウリ専に興味がある人はもちろん楽しめるだろうし、逆もこれを読むとおじさん達がどう見ているのかがわかってもおもしろい。
>オトコがオトコにカラダを売る仕事
なのだが、中にはコネなどでくる女性客もいて、ノンケやバイのボーイが相手をすることになるがやはり引くという。
わざわざウリ専ボーイを指名しなくても女用の出張ホストで遊ぶ気にはならないのだろうか?
美少年 団 鬼六 (1997/05) 新潮社 この商品の詳細を見る |
この本は男女ものです。
団鬼六は男女のSMを書く人なのですが、収録されている『不貞の季節』『美少年』『鹿の園』『妖花―あるポルノ女優伝』四編のうちの一作が男男テイストだったので、その『美少年』を中心に取り上げてみたいと思います。
全体では私小説である「不貞の季節」の団鬼六のがおもしろい。
妻を寝取られた相手から、その妻との猥談を根掘り葉掘り聞いて声を隠し撮りまでさせ、嫉妬に狂いながら欲情している団鬼六は立派な変態M男。
SMの元締めと言われた人の赤裸々な倒錯ぶりがエロティック。
「美少年」は、誰も救われない人の業と時の流れが読後にやるせなくなる。
日本舞踊宗家御曹司、菊雄は同性愛者でありでもある。
望めば何でも手に入りそうな美貌と名声がありながら、作者に向けられた純粋な気持ちからの菊雄の行動が、その気のない相手を好きになってしまったどうにもならない状況に切なくなる。
女らしさとは性別で判断するものじゃない。そう思えるほど菊雄の繊細な気遣いが、卑しさや媚びではない古き良きをイメージする女性的である。
好きになった男(作者)に裏切られ、悪友の男と女達に辱められてしまうのだが、極限の状況でも恥じらいをなくさない菊雄の細やかな心と、女性的であるが故の潔さがかっこ良い。
その菊雄を売った相手の男と作者が四十年後に当時を振り返っている。
当時現場にいた中で生きているのが2人だけの現在。すっかり丸くなっている男達に老いと時の流れが残酷。
SM趣味のあった男に強姦時の写真をネタに脅された菊雄が、最終的には自殺していたというのにショックを受ける。
団鬼六らしくハードな描写で綴るSM世界。
BL漫画にもなってるらしい。
美少年 小野塚 カホリ、団 鬼六 他 (2005/03/31) マガジン・マガジン この商品の詳細を見る |