全5巻
夏の塩―魚住くんシリーズ〈1〉
榎田 尤利 (2000/06)
光風社出版
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幼少期に抱えた問題から自分に対して鈍感な主人公魚住は、味覚障害を抱え不幸を呼び込む体質でもある。そんな魚住の世話を焼くのが久留米という男。
この2人を取り巻く仲間と彼らの成長物語。
飼い犬が死んだからと家を出て久留米のアパートに居着くという、なんとも世俗からかけ離れた感覚の持ち主の魚住くん。
自分のことや対人関係は壊滅的だが、学業はそれなりに優秀で認められていたりもするあたり、ある種の萌え要素を詰め込んだような不思議ちゃんなのだが、このシリーズには日常を感じる事ができるのが最大の魅力だと思う。
魚住くんを説明しようとするとアリエナイの連続であるが、読み進める内に本当に魚住や久留米がいるのではないか思えるほど、リアルに生き生きとキャラが動いている。
浮世離れした中性的な魚住に対し、全く対極にいる男臭さと地に足の着いた鈍感男が久留米。
こちらの久留米もぶっきらぼうながら、魚住を受け止める度量を持ち、何よりピンチに必ず助けてくれるというヒーロー的理想の男でもある。
彼らだけではなく二人を取り巻く友達も魅力的で、魚住の研究室の先輩、インテリ風情の濱田も魚住にちょっかいを出しつつ、結局面倒を見ていたり、隣人の癒し系インド人や、久留米の元彼女マリもキップのいい姉さんで、魚住と久留米を取り巻く環境のいいスパイスになっている。
さちのの死を目撃した魚住がリストカットをするなど、狙ったようなエピソードも織り込まれていたりするが、それも魚住の成長にとって必要なことだったと思わせる吸引力があり、ドラマティックさがリアルにも思える。
読み出すと止まらなく、読み終えてもまだ彼らがどこかで泣いたり笑ったりしているのではないかとどっぷり浸れる作品。
ハードなどころかエッチ描写はほとんど無いが、魚住の色気や、久留米の男らしさにくらくらできる。
挿絵もキャラクターとのイメージがこれほどぴったり合うのは他にないのではないか思うほど、見るたびに世界が広がる。
4巻カバーの久留米がかっこいい。